和字正濫鈔

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和字正濫鈔

和字正濫鈔 五巻五冊

 僧契沖の著 元祿八年?刊本を初めとして、元文四年?本、文政十一年?本、赤堀又次郎編「語學叢書?」所載活版本、契沖全集所収活版本、大阪殿村家藏稿本一冊等がある。因に契沖の著にして著者の生前に刊行されたのは本書のみである。本書は契沖萬葉集研究の進捗に伴ひ、萬葉集等の古い假名遣が當時行はれてゐた「定家假名遣」と違ってゐたので疑問を有ち、日本紀より三代實録に至る古典假名遣を蒐集整理する事によって其處に一個の法則を見出さんとした事に成立の動機がある。その蒐集の語彙は約二千、從來行はれて居た「定家假名遣」の無標準と混雜とに對して本書は確然たる標準と根據とを有ってゐるもので、單に歴史的假名遣を初めて基礎づけたのみならず。當時絶對的に信奉せられて居る傳統的學説に對して自由なる討究と批判とを行ったことは、やがて學としての國語學・國文學の誕生を導いた。契沖が近世國學の鼻祖たる所以である。然し乍らその卓越せる學説も當初は學界を必ずしも風靡した譯でなく、むしろ諸家は多く之に反對した。成員秋成、與清?、残夢?及び二條家、冷泉家流の人々は即ちそれである。後に至って魚彦猛彦春海或は宣長義門等によってその説は増訂されて漸次世に行はれるに至った。

【參考】

* 契沖全集第九巻「契沖傳」久松潜一

亀田次郎国語学書目解題」)