解經秘蔵

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解經秘蔵

解經秘蔵三卷、寺尾正長?の著で安永?四年(二四三五)の自序が有る。正長は東海と號して讃岐の人、「天の靈に頼りて用字の法を悟りたれば此の書を著して上は孔子の忠臣となり下は吾徒をして一字にも無窮の義有るを知らしめんとす」との意気だったが、門人羽富謙は「此書既に梓行すれども世に學ぶ者少し」とて態々大旨の一篇を添へたも皮肉だ。卷一には六書、形聲、仮借、字體變更、音韻、四聲、五音字音輕重兼備、韻母の九論、十二疇、古音徴、四聲動静の十二目を收め、韻母論では上古韻十四(痕と眞との四聲一聯と〓[口台]と齊との三聲一聯)中古韻八十四(東、終、唐、陽、庚、清、寒、先、覃、嚴、歌、支、麻、奢、模、虞、豪、蕭、侯尤の二十の四聲一聯にて八十の内、重出せる十を除きて上古韻を加ふ)なりと云ひ、十二疇とは左の類と云って居る。

直音訓  晋進  離麗  五音清濁も韻母も輕重も皆同じ

傍 〃  萃聚  禮埋 五音清濁も輕重も同じく、韻母は通ず

正同〃  乾健  春出 四字一紐の中に在る

傍 〃  序射  俗常 五音清濁呼吸も輕重も皆同じくして傍紐なる者

類 〃  順養  奉通 五音清濁も輕重も皆同じく呼吸は不同

協同〃  遯退  師衆 呼吸を問はず、惟五音も輕重も皆同じくして清濁は不同

正同韻訓  乾天  〓成 五音清濁を問はず、惟輕重同じして一韻母に列す

傍同〃   屯盈 經實 五音清濁を同じくせす、惟輕重同じくして通韻母に列す

音義二合訓 盍何不 〓不可 一字が二義を兼ぬる故に二字を以て訓す

合音訓   扶搖飆 不律筆 二字が一義を存する故に一字を以て訓す

同字訓   蒙々也 比々也 他字の訓詁を假らず直にその本義を用ふ

措義訓   艮止也 夷傷也 他字の音韻を假らず惟同義を借る

なる程借義訓が一方に有ればすべての訓詁は之に攝せられようが果して正しきや否やは疑問だ。又前の九疇で協はぬ者あるは上古の音聲を失ったからだとて古音徴で其の二三の例を擧げて有る。卷二には五音圖廿六(三内聲)、卷三には同廿二(無尾韻)を收めて其の圖は又獨・廣・前後の三種に分れる。圖中の文字は多く韻鏡と符合するが全同では無い。蓋し漣窩の流を汲んで更に其の波を揚げたものだらう。

岡井慎吾日本漢字学史』)